人手不足を生き抜くための知恵
BAKE PORTの職人のホンネに寄せられたアンケートと、
パン好き主婦のアンケートをもとに、人手不足時代をどうパン屋さんが生き抜くかを考えていきます。

【課題整理】パン屋さんの人手不足事情と抱える課題とは?
BAKEPORTの「職人のホンネ」に寄せられた声から判明したパン屋さんの人手不足事情について考えてみます。
●Q あなたのお店は人手不足でしょうか?
(n=117)

●Q 人手不足の原因は何だと思いますか?

課題を大きくわけると……
❶求人に応募が来ない ⇒このお店で働きたいと思ってもらう必要性
❷ 採用しても定着しない ⇒新人が業務に適応しやすい環境作り
❸現状の職場環境が良くない ⇒既存従業員の働きやすさを改善
課題解決の構造

パン屋さんも 人手不足に悩んでいる
「最近、人が本当に採れないんです」――
これは、BAKEPORTの「職人のホンネ」に寄せられた声の一つです。
パン業界における人手不足は深刻さを増しており、
実際に行った「職人のホンネ」のアンケートでも「人手が不足している」と答えたお店は78%にものぼりました。
その原因として挙げられたのは、「労働環境が厳しい 」「採用しても定着しない」
「求人を出しても応募が来ない」「賃金が低い」といった声。
要するに、「来ない・続かない・つらい」という三重苦が、多くのパン屋の現場を悩ませているのです。
課題を大きくわけると
①求人に応募が来ないのであれば、このお店で働きたいと求職者に思ってもらう必要性。
②採用しても定着しないのであれば、新人が業務に適応しやすい環境を作る必要性。
③職場環境が良くないのであれば、既存従業員も働きやすいと感じられる環境を作る必要性。
これらの課題に対して、どのような対策ができるのでしょうか。
ひとつは、「既存の人員で回せる仕組みをつくる」ことです。
課金する対策としては、効率化機械の導入や一部工程の外注化が有効です。
一方で、無課金でもできる方法として、製法の見直しで時短を図ることや、
誰でも扱いやすいレシピにすることで省力化を目指す店舗も増えています。
定休日を増やして労働負担を軽減するなど、働き方の見直しも効果的です。
もうひとつは、「新規人材を確保すること」です。
こちらも課金対策としては、時給アップや求人広告の出稿、外部人材(業務委託など)の活用が挙げられます。
対して、SNSでの発信による採用や、既存スタッフや業界関係者からの紹介といった
”無課金”でも取り組める方法もあります。
人材確保の難しさは、今後ますます高まっていくと予想されます。
だからこそ、「働いてみたい」「ここなら続けられそう」と思ってもらえる環境づくりが、
今のパン屋に求められていると言えるでしょう。
この特集では既存人材をうまく活用している事例や、新規人材獲得に成功している事例を紹介します。
またパン屋さんに通うパン好き主婦にも、どんなお店で働きたいかのアンケートをとっているので、
お店の求人戦略の参考にしてくださいね。

【既存人員活用】人手が足りなくてもできる工夫 なるべく業務効率化するには
人手が足りない現場でも工夫できることがあるのではないか、
「職人のホンネ」や取材先のシェフから伺った工夫を考えていきます。
【TIP 1】材料を見直し作業工程を減らす
◇仕込み時間削減のために…
❶すぐに使える冷凍素材を一部導入
❷ 手間のかかる原料を別の素材に変更
❸ 冷凍生地を導入
❹ 既製品のフィリングを活用
【TIP 2】レシピの簡素化
◇作業を標準化するために…
複雑な製法をやめて誰でも作れるようにした
◇手間を減らすために…
❶トッピング工程を簡単にした
❷ 成形の工程を少なくした
【TIP 3】製法見直しで時短化
◇人員配置を再検討
❶作業の流れを見直し、効率的に動けるようにスタッフの配置を変える
❷ 複数店舗あるお店はセントラルキッチン化する店舗をつくりそこから各店舗に供給
◇見直した工程の例
❶ 発酵時間を調整し、一度にまとめて作業できるようにする
❷ 生地の仕込みを前日に変更し、当日の負担を減らした
現場の声から見えてきた業務効率化アイディア集
人手不足でも現場を回す工夫は可能です。
たとえば、冷凍素材や既製品フィリングの活用、原料の見直しで仕込み時間を削減する店舗も増えています。
レシピを簡素化し、成形やトッピング工程を減らすことで、誰でも一定の品質を保てるようにする工夫も有効です。
一部のパンを包餡するのではなく「見せる」成形に変えたことで、
包餡技術が未熟なスタッフでも作れるように工夫する事例もあるようです。
製法そのものを見直し、発酵時間や仕込みのタイミングを調整して作業をまとめる時短術もあります。
複数店舗を持つ店では、セントラルキッチン化による集中製造で業務効率を高めることができます。
1店舗を製造拠点にし、他店に冷凍生地などを供給するやり方もあります。
また機械などの設備を整備することが大切です。
新規機械の導入だけでなく機械の入れ替えもすることで効率改善につながります。
現場ごとの工夫が、持続可能なパン屋づくりの鍵になっています。
成形方法を変えてみる

津金 一城さん
フィリングを包餡するのではなく見えるようにするなど
包餡技術が未熟なスタッフでも簡単につくれるようにして製造を効率化することもあります。
副次的な効果として、中身が見えて消費者の興味を惹きつけやすくなります。
複数店舗ある場合は1店舗をセントラルキッチン化する

田本 洋さん
3店舗のうち1店舗をセントラルキッチン化しました。
そこから冷凍生地を供給する仕組みにしました。
全店舗の80%を賄えております。
カスタードやカレーフィリングもまとめてつくり急冷して各店に送っています。
デニッシュのように手間がかかるものはアウトソーシングして製造負担を減らしています。
機械設備の見直しと導入を 必要に応じて

関根 大介さん
人手不足対策として最も効果を実感したのは設備面の改善です。
新規導入だけでなく、古くなった機械の入れ替えも大切だと思います。
製造オペレーションの効率改善が、数字に直結する効果を生んでいると感じました。
【既存人員活用】既存人員の強みで戦略化 やりがい創出と定着化
人手が不足しないように、お店の既存人員の戦力化や定着化を考えていきたいですね。
工夫していることを教えていただきました。
一部パートスタッフを社員登用へ

田本 洋さん
子育てが落ち着いたパートスタッフ を社員登用すると、安定した人員確保が可能です。
強みに着目した役割設定

関根 大介さん
新規採用よりも、既に店舗や顧客、商品を理解している既存のパートスタッフのほうが
戦力化を考えるうえで即戦力になっていて、教育コストも抑えられています。
パートスタッフにいつも助けられています。
また強みに着目した役割設計を考えています。
各スタッフの得意分野を活かしています。
【例】
数値管理得意な人…在庫管理
PCスキルがある人…販促物の作成
商品開発が得意な人…フェアの企画立案
本人の得意領域を任せることでロイヤリティが向上し、長く働いてもらえる仕組みを作っています。
今いる従業員を大切に長く働いてもらうために
人手不足の時代、頼りになるのはすでに現場にいるスタッフたちです。
ローカリズムの田本シェフは、子育てが一段落したパートスタッフを社員登用し、
安定的な人材確保に成功しています。
「もともとお店を理解しているので、即戦力として活躍してくれます」と語ります。
ベーカリーハウスマイでは、既存スタッフの強みを見極めて役割を設計。
たとえば、数値管理が得意な人は在庫管理、PCスキルがある人は販促物の作成、
商品開発に関心のある人はフェア企画を担当するなど、適材適所の工夫を重ねています。
このような取り組みは、本人のやりがいや自信にもつながり、
結果的にロイヤリティが高まり定着率の向上にも寄与します。
教育コストも抑えられるため、長期的に見ても大きなメリットがあります。
今いる人材をどう活かすかは、採用に頼らない人手不足対策として、ますます重要になっています。
人材定着に関わる15要素をまとめているので、あなたのお店の職場環境を見直すヒントにしてみてくださいね。

人材定着に関わる15要素
働き手の視点でその職場のパン屋さんで働き続けるかどうかを考えるときに
考えるポイントを15 要素まとめています。

①作業環境の充実
製造機械や製造スペースなどの扱いづらさがあれば、その小さなストレ
スが日々の製造に影響を与えるかも。作業環境を整えることが重要。
②快適な職場環境
コミュニケーションの取りやすさ、相談のしやすさなど
職場環境が働いている人の意欲に影響を与えます。
③経営の信頼
お店の経営が安定していれば安心して働くことができます。
経営者が方針を考えて共有することが必要です。
④最適な人員配置
従業員それぞれの得意、不得意があるので、
なるべくその人にあった業務ができるように配置を考えると良いでしょう。
⑤教育の体制
新人も既存スタッフも知らない業務を学ぶ場合、
丁寧に教えてくれる環境があれば新業務を身に着ける抵抗感が少なくなります。
⑥多様な働き方
人によって適切な労働時間や労働スパンは異なるので、
全て同じ勤務条件ではなく働き方を選べるとその分、様々な人材を確保できます。
⑦適切な評価
評価基準があいまいで、人によって納得感にバラつきがあると、
働きぶりを正当に評価されていないように感じて離職の原因となります。
⑧良好な人間関係
人間関係がギスギスしていると、どんなに他の待遇が良くても長く働き辛くなります。
働きやすい関係を築くように意識しましょう。
⑨上司との関係
業務を教えてもらったり、評価してもらったりする相手だからこそ、
他の同僚より遠慮することややりづらさを感じやすい部分もあります。
双方のコミュニケーションが大切です。
⑩業務量と時間的負担
業務量が多すぎたり、長時間労働しすぎると、
働き手の気力と体力が追い付かなくなるので適切な分量であるかを考える必要があります。
⑪私生活との両立
仕事にやりがいを持てたとしても、私生活に影響が出てしまっていたら、
仕事のあり方を見直すことになります。
⑫休暇の取りやすさ
休みたい時に休めることは働き手が心身ともに健康に働くためには必要な要素です。
⑬やりがい
働きやすさがあったとしても、働く意義や自分の成長を感じられないと
他の仕事や職場にしようかなと考える原因になります。
⑭メンタルヘルス
①~⑬までの何か、または複合要因で
働き手の精神が不健康になってしまったら仕事を続けることができません。
⑮フィジカルヘルス
①~⑬までの何か、または複合要因で
働き手の体の健康が損なわれてしまったら仕事を続けることができません。
【新規人材採用】 お客様があなたのお店の従業員に⁉ 求められるお店像とは
パン好き主婦のアンケートによると、
パン屋さんで働くことに興味を持っている人がいることが判明しました。
どんなお店で働いてみたいと思うのでしょうか。
パン好き主婦のアンケート
●Q パン屋さんで働くことに興味を持ったことはありますか?(n=444)

55.9%のパン好き主婦がパン屋さんで働くことに興味あり!

パン屋さんで働くことに興味がある人に追加質問!
●Q パン屋さんで働くとしたらどんな業務をやってみたいと思いますか?(n=248)

●Q 「パン屋さんで働きたい」と思うためには、どんな要素や条件があれば応募しやすいですか?(n=248)

<その他気にしている条件>
▶シフトが柔軟(勤務時間帯、週の勤務頻度が選べる):51.2%
▶時給が良い:46%
▶パンがもらえる・割引がある:36.3%
▶パン製造技術が学べる:28.6%
▶接客がメインでパン製造は不要:10.5%
待遇よりもお店の雰囲気を気にしている
パン好き主婦を対象としたアンケートで、「パン屋さんで働いてみたい」と感じたことがある人は
過半数超えの55.9%にのぼりました。
「身近なお店で募集が出ていたら気になる」と思うお客様がいそうです。
お店の未来の仲間はお客さまの中にいるのかもしれません。
「パン屋さんで働いてみたい」と感じる要素として最も多かったのは、
お店の雰囲気が良いことや、店長・スタッフの人柄の良さでした。
待遇よりも、日常的に接する空気感を重視する人が多いことがわかります。
やってみたい業務については、「製造補助(65.7 %)」が最多で、
レジや販売( 37.9%)、POPやSNS作り(24.2 %)、
新商品のアイディア出し(26.6 %)などにも興味が集まりました。
求人広告だけでは伝わらない、”このお店で働いてみたい” と思わせる日々の雰囲気づくりこそが、
実は採用の第一歩なのかもしれません。
【新規人材採用】 このお店で活躍したいと若手人材に 思ってもらえるように工夫するには
若手人材はこれからのベーカリーの未来をつくる希望です。
若手人材がよく集まるお店に工夫していることを尋ねました。
SNS発信を抜かりなく& 待遇UPできるお店に

宮下 真彦さん
日頃からSNSなどでハイジの発信をチェックしている若い人が、
募集のタイミングで応募してくることが多いです。
日頃から情報発信してお客様とコミュニケーションをとっているからこそ、
パンを好きになるお客様だけでなく、一緒に働いてみたいと思うスタッフを
集めることができるのではないかなと思います。
お店の売上を伸ばし待遇を上げていけるようにしています。
同地域のお店の中で一番の待遇を目指しています。
パン作りの楽しさ& 店舗の成長による環境改善

神林 慎吾さん
若手人材といえば、新卒採用が中心で、
飲食業界志望者がパンに魅力を感じて入社していることが多いですね。
店舗成長とともに人材も変化し、店の環境改善が採用力向上に繋がっているように思います。
私自身、パン作りが楽しいと心から思っていてそれが若手にも伝わるとよいなと思います。
成長するお店に若手人材も集まりやすい
若手人材が集まるお店は、成長しているお店だという共通点があります。
ベーカリーハイジの宮下真彦シェフは、日頃のSNS発信を通じて店舗の雰囲気や取り組みを発信しています。
インスタグラムなどSNSでお店の魅力をうまく発信できていると
SNSがネイティブな若手世代に見つけてもらいやすいかもしれません。
パン好きな若者が投稿を見て応募してくるケースが多いようです。
地域で一番の待遇を目指して売上改善にも取り組み、環境整備を進めているとのことで、
より魅力的な職場だと思ってもらえるのかもしれません。
モアザンベーカリーの神林慎吾さんは、店舗の成長と環境改善が若手採用に直結していると感じています。
新卒採用を中心に、パンづくりに魅力を感じた若手が入社しています。
若手こそ成長の伸びしろが大きいでしょう。
スタッフの変化に応じて店舗側も進化していくことで、働きやすい職場が形づくられています。
若手人材を受け入れるお店側がパン作りが楽しい魅力的な仕事であると日々、思いながら働けば、それは自然と若手人材にも伝わるのかもしれません。