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コンセプトの“純度”を下げないまま、10年以上続けるということ

コンセプトの“純度”を下げないまま、10年以上続けるということ

パティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」に見る、ブランド継続の力学

パティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」とは

大阪に店を構えるパティスリー「seiichiro nishizono」。
“香り”を軸にした菓子づくりを特徴とし、店舗販売に加え、全国の百貨店催事でも存在感を示してきた。

遠方からの来店客も多く、催事をきっかけに店を知り、実店舗へ足を運ぶ人も少なくない。2014年の開業以降、店の規模や体制は変化してきたが、菓子づくりの考え方そのものは、大きく変わっていない。

開店当初から変わらない「香り」という軸

「Seiichiro,NISHIZONO」の菓子づくりにおいて、開店当初から一貫しているのが、香りを重視するという考え方だ。

味の構成や見た目ではなく、まず香りをどう立ち上げるか。その考え方は、開業前の催事時代から続いている。

流行に合わせてテーマを変えるのではなく、自分たちが何を大事にするかを、商品ごとに積み重ねてきた。

結果として、「記憶に残る香り」という印象が、店の認識として定着していった。

店舗は20坪から、10名を超える組織へ

開業当初の店舗は、キッチン8坪、売り場が6坪の約20坪の物件で決して大きな店だったわけではない。
研究開発や催事用製造の拠点としての意味合いも強かった。

そこから年月を重ね、現在ではスタッフ数も10名を超える体制となっている。

人が増え、組織になる過程では、作業効率やオペレーションを見直す場面も多かったはずだ。だが、商品そのものの考え方は変えられていない。

規模が変わっても、コンセプトの置きどころは変えない。その判断が、結果としてブランドの輪郭を保ってきた。

好きだから続く、という現実

取材の中で印象的だったのは、西園誠一郎シェフが、過去に100日以上連続で働いていた時期があったと語っていた点だ。

それを「大変だった」と強調することはなかった。むしろ、「苦にならなかった」と笑顔ながらに話す。

菓子づくりそのものが、日常であり、仕事であり、続ける理由になっていた。

この感覚は、一時的な情熱では説明できない。長く続ける中で、
自然と積み重なっていったものだろう。

コンセプトを守ることは、変わらないことではない

「コンセプトを変えない」と聞くと、同じことを繰り返しているように聞こえるかもしれない。

だが実際には、商品数も、体制も、役割分担も変わってきた。

変えているのは手段。変えていないのは軸。香りを起点に商品を考えるという発想は保ちつつ、その表現方法や届け方は、状況に応じて更新されている。

10年以上続いた理由は「削らなかった」こと

ブランドを長く続ける中で、多くの店が直面するのが、「分かりやすさ」や「売りやすさ」への誘惑だ。

だが「Seiichiro,NISHIZONO」では、コンセプトの純度を下げる選択は取られていない。説明を足すのではなく、削らずに続ける。

その積み重ねが、時間をかけて理解され、支持される形につながってきた。

業界への示唆

コンセプトは、一度決めれば終わりではない。

人が増え、店が成長するほど、守る難易度は上がっていく。
それでも、何を削らずに残すのかを決め続けることが、ブランドを続ける力になる。「Seiichiro,NISHIZONO」の10年以上の歩みは、その現実を、事実として示している。

音楽と菓子づくりに共通する、「続ける」という感覚

取材の中で、西園誠一郎シェフは、若い頃から長年にわたって音楽活動にも取り組んできたことを語っている。

軽音学部に所属し、J-POPやロックなどの音楽に向き合いながら、時間をかけて続けてきた経験があったという。

音楽活動も、菓子づくりと同じく、すぐに結果が出るものではない。日々の積み重ねが中心で、評価や反応が見えにくい時間も長い。

それでも続ける。うまくいかない時期があっても、やめずに向き合い続ける。

西園シェフが10年以上にわたり、香りを軸にした菓子づくりを続けてきた背景には、こうした「続けること」そのものに慣れていた感覚もあったのかもしれない。

菓子づくりも、表現のひとつとして続いている

ケーキづくりは長く続けていく表現活動でもある。

西園誠一郎シェフの歩みは、音楽と菓子づくりという異なる分野を通して、
「続けること」そのものが力になることを示している。

まとめ

派手な戦略があったわけではない。大きく方向転換したわけでもない。
香りを軸にした菓子づくりにこだわり、変えずに続けてきたという西園シェフ。

その結果、店は組織になり、人が集まり、ブランドとしての輪郭が保たれてきた。
菓子づくりも、音楽も、どちらも一度で完成するものではない。

コンセプトの“純度”を下げない。それは簡単ではないが、長く続けるための、ひとつの現実的な方法なのかもしれない。

コンセプトの“純度”を下げないまま、10年以上続けるということ

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