昆虫やオート麦──“未来の粉”で広がるパンの可能性

小麦の価格高騰や環境問題が叫ばれるなか、パン業界でも新しい素材が注目されています。その代表格が「昆虫パウダー」や「オート麦粉」など、環境負荷の少ない“未来の粉”。まだ実験的な取り組みも多いものの、実際に導入を試みるベーカリーも出始めています。ここでは、この新しい素材をもし実際に使用するなら?と仮定して、パン屋が知っておきたい新素材の特徴と活用のヒントを紹介します。

なぜ“未来の粉”が求められるのか
世界的に小麦需要は年々増加していますが、気候変動や輸送コストの上昇により安定供給が難しくなっています。そこで注目されているのが、昆虫やオート麦、ソラマメなどの新しい粉原料です。従来の小麦に比べて栽培や生産に必要な水や土地が少なく、CO₂排出量を大幅に削減できるとされています。
こうした背景から、欧州を中心に「持続可能なパン原料」として研究が進み、日本でも食品メーカーや大学が共同研究を進めています。
昆虫パウダーの栄養と課題
コオロギやミールワームを乾燥・粉砕した昆虫パウダーは、高タンパク・高ミネラルが特徴です。パン生地に数%混ぜ込むことで栄養価を高められると同時に、ほんのり香ばしい風味を与えることができます。
一方で、消費者の心理的ハードルが高く、「昆虫」という言葉に抵抗を示す人が少なくありません。商品化する際は、栄養価や環境メリットをしっかり伝える工夫が不可欠です。
オート麦粉や豆類粉の活用

より取り入れやすいのが、オート麦やソラマメ粉。グルテンが少ないため、小麦とブレンドして使うのが基本ですが、香ばしさやしっとり感が加わり、差別化しやすい素材です。特にオート麦は「腸活」や「食物繊維」のイメージが強く、健康志向のお客さんから支持を得やすい傾向にあります。
また、こうした新素材は「ヴィーガン対応」「グルテン削減商品」としての打ち出しも可能で、若年層のニーズにマッチします。
まとめ
“未来の粉”は、単なる代替素材ではなく「パンの新しい価値提案」につながります。環境に優しいだけでなく、栄養・健康・話題性という切り口も持っているからです。
いきなり主力商品に取り入れるのは難しくても、限定商品やイベント出品などで実験的に使ってみるのも一つの手。持続可能性を意識したパンづくりは、これからのベーカリーに欠かせないテーマになるでしょう。
参考文献・出典一覧
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