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Boulangerie NOAN 田村秀亮

Boulangerie NOAN 田村秀亮

腕を磨き、人を育てる 次の時代のパン屋をつくる人

田村秀亮(たむら しゅうすけ)

Boulangerie NOAN オーナーシェフ。
佐賀県出身。
2016年、福岡県糸島に独立開業。
3年後には2号店を展開し、ハード系を中心に地域の食卓に寄り添うパンを届けている。
現在は開業支援や国内外への商品開発などプロデュース事業にも注力し、若い職人が無理なく活躍できる環境づくりを目指している。

地元福岡から、自身の技術を武器に若手を守る職人

福岡県・糸島。
朝ドラのロケ地としても記憶に新しく、観光地として人気のこの町に、朝から行列が途切れないパン屋、Boulangerie NOAN( ノアン)がある。
週末には遠方からもファンが訪れる人気店で、カンパーニュやロデヴなどのハード系を中心に、地域の食卓に寄り添うパンを焼き続けている。

手がけているのは田村秀亮シェフ。
現在は糸島と福岡市近郊に2店舗を展開し、さらに新規開業支援や商品開発まで、プロデュース事業にも力を入れるオーナーシェフだ。
編集部が取材でお会いしたときの印象は、ゆっくりとした穏やかな口調で、しかし話の端々から、強く揺るぎない職人としての芯が伝わってきた。

取材中は、若いスタッフから気軽に声が掛かっているのが印象的で、上下関係の壁をつくらず、誰に対してもフラット。
その空気感が、自然と信頼を集めているのだと感じた。

福岡・糸島という地から、独自の経営哲学を武器に評価を高めている。
「腕のあるパン職人が、ずっとパン屋を続けられる未来を作りたい」
その思いを胸に今日も現場に立ち、さらには他店の成長も支える、新しい時代のオーナーシェフに話を聞いた。

陶芸から始まった 「ものづくり」の道

田村シェフのバックボーンには、学生時代に学んでいた陶芸がある。
陶芸は“ 作品として評価されるのが難しい世界” だと、当時から田村シェフは感じていた。
「死んでから評価される世界」とも語っているように実際に陶芸を職業として食べていく厳しさを目の当たりにしたという。

そんな時に出会ったのがパン。
テレビを見ながら、陶芸とパンの工程の共通点に気づいたことがきっかけだった。
土が小麦に、窯がオーブンに変わっただけで、「作品をつくる」という本質は変わらない。
違いがあるとすれば、完成した後に存在できる時間の長さだけ。
田村シェフはこうして、“ものづくりそのもの” が純粋に好きという原点を持ったまま製パンの道へと進むことになる。

大手製パン会社で磨いたのは パンより“人間力”だった

田村シェフが最初にパンづくりに携わったのは、福岡に本社を置き、九州を中心に展開する大手製パン企業リョーユーパンだった。
日々変わらない品質を安定して供給する。
会社員としてのパンづくりに求められる使命は明確で、その期待に応え続けることがまず第一歩だった。

しかし田村シェフは、与えられた役割をそつなくこなすだけでは満足しなかった。
職人としての技術をとことん磨くことに力を注ぎ、「技術では絶対に負けない」という想いを原動力に、現場の最前線に立ち続けた。
気づけば、困りごとがあれば自然と相談が集まる存在になっていた。
技術だけでなく、段取りや判断、人との向き合い方ー現場を動かすための力・現場に立ち仲間を率いる覚悟が備わっていった。

その背景には、寮生活を共にした当時の先輩の影響が大きい。
現在、リョーユーパンにて、代表取締役社長を務める中島高徳氏だ。
現場に立ち続ける覚悟と、組織の中で動く視点を教えてくれた存在。
その学びは、田村シェフの原点の一つとなっている。
18年間の積み重ねで身につけたのは、パンの技術だけではない。
店を成り立たせる視点、人を支え、チームを動かす力、責任を持って現場に立つ覚悟。

そして田村シェフは確信する。
会社員として積み上げた力は、独立後も通用する。
独立は挑戦ではなく、歩んできた延長線上にあった必然だった。

技術で勝負する 糸島で始めた NOANという答え

独立の舞台に選んだのは、慣れ親しんだ地元・福岡。
糸島という場所は、物件との出会いで自然と決まった。
象徴として据えたのは、長年磨いてきた得意分野であるハード系。
噛むほどに旨味が広がり、食べやすい食感。
田村さんがリョーユーパンで磨き続けた技術こそがNOAN の個性として受け入れられている。

一方で、食パンや菓子パン、調理パンといった日常のパンも欠かさない。
地域の暮らしに寄り添うパンが、お客様の最初の入り口となり、やがて技術の象徴であるハード系へとつながっていく。
特別な戦略があったわけではない。
18年間磨いてきた腕と、人を支えてきた経験。
その積み重ねを、きちんと形として届けられる場所。
自分の力は通用する。
あとは、それを店として表現するだけ。

その手応えを信じて、好きなパンと選ばれるパンが共存するこの場所で、田村シェフが歩んできた道の答えが息づいている。

人が育つ店は店も育つ 上下をつくらない組織づくり

NOAN の店内は、心地よい距離感がある。
若いスタッフが声をかけ、田村シェフも自然に応じる。
上下関係を強く意識させない空気が、店に流れている。
田村シェフが大切にしているのは、手技よりも“ 考え方” を伝えること。
判断軸が共有されていれば、誰が現場に立っても品質は揃う。
そこに、店としての強さが生まれる。
任せるから、育つ。
育つから、また任せられる。

現場に立つのは、いまやスタッフたちの役目になった。
田村シェフは、その背中を支える存在へと役割を変えている。
若い職人が無理なく続けられる環境をつくりたい。
パンを仕事にする人が、未来を描ける業界にしたい。
過度に自分が前へ出るのではなく、スタッフ一人ひとりが主役になれる現場こそ目指している姿だ。

NOAN で培ってきた経験は、店の外にも広がっている。
新店舗立ち上げのサポートや商品開発など、自身の技術をベースとしたプロデュースにも取り組み、他の店の成功を支える役割も担い始めている。
人が育ち、店が育ち、やがて地域に根づいていく。
次の世代が活躍できる“現場” を自らつくろうとしているのだ。

NOAN で育った力を、次へと広げるために。
田村さんのその歩みは、まだ始まったばかりである。

【田村シェフに聞いた】 プロデュースに込めた想い

うちの店が少し落ち着いて、「釣りしててもいいんですけど(笑)」って言えるくらい余裕ができた時期がありました。
でも、自分はまだ元気だし、遊んでてもしょうがない。
それなら、自分のリソースを誰かの挑戦のために使いたい。
そう思ったのが、プロデュースに踏み出した理由です。
プロデュースは自分の店を持つのとは全然違う。
相手の価値観に寄り添って形にすることが一番難しい。
でも、それを嫌がらずに向き合える人だけが、いい店をつくれると思っています。

実際に佐世保でプロデュースした新店では、僕が信頼するスタッフを派遣して開業を支えるところから一緒に進めました。
デザインはオーナーさん主導で、自分とはまったく違う世界観。
でも、その違いは僕自身の学びにもなった。
コンサルだけじゃ得られない経験がそこにありました。
何より大切なのは、地域性に合わせて最適化すること。
価格、パンの大きさ、売れ筋は土地で変わる。
開業後も試し続けて、正解を現場で見つけていきました。
企業と組むことで、自分一人では届かない領域にも踏み込める。
いい技術を、ちゃんと現場で活かしていく道が広がる。

僕が一番やりたいのは、店を増やすことじゃない。
若い職人が主役になれる現場を増やすことです。
うちのスタッフを片っ端から独立させるんじゃなくて、ちゃんと続けられる道をつくりたい。
技術を磨き続けたから、僕は独立できた。
だからこそ思う。
技術を持った人間が、きちんと評価される未来をつくりたい。
パンだけ作っていても、店は回らない。
売る力、お金の管理、戦略も必要になる。そういう現実を見せながら、「技術はちゃんと価値になる」と伝えたいですね。

さらに来年には、福岡市早良区に新規プロデュース店舗をオープン予定です。
必要とされる場所がある限り、今後もどんどん現場をつくりに行きたいと思っていますし、自身の店も育ってきた若手に任せて自分は新たな挑戦を続けていきたいと感じています。

若手が続けられる未来へ

パンづくりには、僕なりの理想があります。
「本当はこうしたい」という完成形は、いつも頭の中にある。
けれど、人を雇う以上、その100%を常に求めるわけにはいかない。
理想のパンを追うことと、人に任せる仕組み化。
その両立こそ、いまの課題だと感じています。
理想を1割、2割は削ってでも、誰もが再現できる仕組みに落とし込む必要があると思っています。
仲間と一緒に店を続けるなら、レシピの簡略化やオペレーションの仕組み化も“技術”の一部になる。
経営を続けるうえでは、現場の理想と運営の現実、その両方を見つめる必要があるんです。

僕自身、たくさんのスタッフと働いてきたからこそ、「人を雇う」ことは、単に人手を増やすことではなく、技術を“共有できる形”にまで昇華させるということだと実感しました。
また、パン屋は本当に価値ある売上は限られた時間にしか生まれないとも思っています。
無駄な売上やロスを抱えたままでは、職人も店も続きません。
平日どれだけ頑張っても売上が伸びないなら、営業日数を減らして集中して価値ある売上を作ったほうがいい日もある。
数字をしっかり見て、みんなが幸せになれる形にしていく。
従業員を犠牲にして利益を出すビジネスは、もう時代に合わないですからね。

経営の形も、パンづくりの形も、時代とともに変わる。
理想と現実を行き来しながら、どちらも諦めないバランスを探しています。
少ない稼働でもきちんと利益が出て、働く人が余裕を持てる店を増やしたい。

そして挑戦したい若手にはどんどん舞台を用意したい。
やりたいことがあるなら、僕が環境を整える。
必要なら会社の設備も貸す。
パンが好きでこの仕事を選んだ人たちが、まっとうに報われる業界にしたい。
僕がこれまで積み上げてきた力は、そのために全部使いたいですね。
若手が輝ける未来をつくる。
それが僕の役目だと思っています。

コンベクションオーブン キューブ・エア / CBA5.0406

仕上がりに独特の“ 表情”が出るのが特徴で、「熱風の回り方が良く、焦げにくいところも気に入っている」と田村シェフ。
小型ながら動作音が静かで扱いやすく、デッキオーブンの上段に置いても高さの負担が少ないため「女性スタッフでも使いやすい」と評価している。
日々の仕込みのなかで稼働頻度が最も高い、NOAN の“ 主力の1台”である。

デッキオーブン コンド / CO2.1208

蒸気がしっかり入り、蓄えた熱で生地をふくよかに立ち上げる。
「パン生地の伸びがいい」と田村シェフが語るように、焼成時の火の入り方が安定しており、ノアンのレシピとの相性も良いという。
下段に配置すればスリップピールの出し入れもしやすく、「女性でも扱いやすい」点も現場では大きな利点。
頼りがいのあるオーブンだ。

マイティS50/30 / MS-50/30

※掲載中の機械写真は、春日店にあったものです。

田村シェフがもっとも信頼する機械。
「強さ・安定感・使いやすさ」が抜群で、見た目のデザイン性も含めて長く使用しているお気に入り。
50Lと30Lで使用できる兼用タイプ。

SHOP DATA

Boulangerie NOAN (ブランジュリノアン)糸島本店

●所在地:
福岡県糸島市篠原西1丁目9-10
● 立 地 :JR筑肥線 筑前前原駅より徒歩13分
●開業年:2016年
●定休日:火曜日 木曜日
●スタッフ数:7名(製造:3名 販売:4名)
●日商:平日平均 25万 土日 45万
●客単価:2,300円
●オーブン台数:3台
●ミキサー台数:1台
●パンの種類:60~70種類(生地数:10 )

Boulangerie NOAN 田村秀亮

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