フリーランス時代に確立した“セルフプロデュース”

商品が名刺となり、仕事を連れてくるまで
パティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」とは

大阪に店を構えるパティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」は、香りをテーマにした菓子づくりを軸に、独自の存在感を築いてきた店だ。
現在は店舗販売に加え、全国の百貨店催事にも継続して出店しており、催事をきっかけに店名を知ったという人も少なくない。実店舗には、遠方から足を運ぶ来店客の姿も見られる。
店を率いるのは、西園誠一郎シェフ。2014年に店舗を構える以前から、商品開発や催事、コンサルティングなど、複数の現場で菓子づくりに携わってきた。
現在の「Seiichiro,NISHIZONO」は、そうした経験の積み重ねの延長線上にある。
店舗を持つ前にあった、フリーランスという時間

西園誠一郎シェフが現在の店を構えるまでには、いわゆる「フリーランスのパティシエ」として活動していた時期がある。
雇われ社長として関わっていた店の倒産をきっかけに、個人事業主として再スタート。店舗を持たず、商品開発やコンサルティング、催事を中心に活動していた。
このフリーランス時代に積み重ねた経験が、後の店舗運営や初動にも大きく関わっていく。
店舗を持たずに、仕事をつくるという選択

雇われ社長として関わっていた店の倒産を経て、西園誠一郎シェフは個人事業主として再出発する。
いわゆる「フリーランスのパティシエ」という立場だ。
当時、フリーランスという働き方は、現在ほど一般的ではなかった。正社員として雇うには重たいが、商品開発や技術面で相談したい。そうした現場のニーズと、西園シェフの立ち位置が重なっていく。
店舗を持たず、看板もない。それでも仕事は少しずつ増えていった。
商品開発・コンサルティングという仕事の積み重ね

フリーランスとしての主な仕事は、企業の商品開発やコンサルティングだった。開発に特化した関わり方で、菓子そのものを形にしていく。
この時期、西園シェフは複数の現場を行き来しながら、「商品として成立させる」経験を重ねていく。
どの現場でも共通していたのは、自分が何を提供できるのかを、商品で示すという姿勢だった。
言葉で説明するのではなく、完成した菓子そのものが、自身の役割を伝えていた。
大手寿司チェーン店のパフェ開発という大型案件
フリーランス時代の仕事の中でも、ひとつの転機となったのが、全国展開する大手寿司チェーン店のパフェ開発だ。
冷凍流通を前提としながら、菓子として成立させる設計。原価率は約55%。素材や構成にも向き合いながら商品化が進められた。
この仕事は、金額面だけでなく、フリーランスとして仕事を継続していくうえでの大きな経験になったという。
催事で“商品が語る”という感覚

西園シェフは、フリーランス時代から百貨店などの催事にも継続して参加していた。限られた期間、限られたスペースで菓子を販売する催事は、商品そのものが評価される場でもある。
ここで重要だったのは、催事用にコンセプトを変えなかったことだ。
店舗がなくても、商品を通して考え方や方向性が伝わる。その結果、西園シェフの菓子を知り、繰り返し足を運んでくれる人が少しずつ増えていった。
「名刺代わりの商品」が仕事を連れてくる

フリーランス時代、西園シェフは自分自身を大きく売り込むことはしていない。その代わりに、商品をつくり続け、場に出し続けてきた。
催事、商品開発、コンサルティング。それぞれの現場で、菓子が“名刺代わり”になっていく。
「何ができる人なのか」は、説明されるものではなく、商品を見れば分かる状態がつくられていった。
場数で磨かれた接客と、現場感覚

催事では、製造だけでなく、販売や接客にも立つ。誰が、どんな理由で手に取るのか。どこで迷い、何に反応するのか。
こうした感覚は、現場に立たなければ得られないものだ。
西園シェフにとって、催事は単なる販売の場ではなく、菓子と人との距離を確かめる場所でもあった。
SNS以前に生まれていたファンベース

現在では、SNSを起点にファンが広がるケースも多い。しかし、西園シェフの場合、その前段階で、すでに西園さんの作った菓子を追いかける人が生まれていた。
催事を通じて知り、別の催事にも足を運ぶ。やがて、店を持ったことを知り、来店する。
フリーランス時代の活動が、そのまま店舗の初速につながっていった。
フリーランスという時間が残したもの

店舗を持つ前のフリーランス期間は、不安定な立場である一方、西園シェフにとって多くの現場経験をもたらした。
商品が名刺となり、仕事を呼び、人がついてくる。
その積み重ねが、2014年の開業時、「ゼロからのスタート」ではない状態をつくっていた。
業界へのヒント

フリーランスという働き方は、すべての人にとっての正解ではない。
しかし、
🍰店を持たずとも仕事はつくれる
🍰商品そのものが価値を語る
🍰コンセプトを曲げずに続けることが、後から効いてくる
西園誠一郎シェフの歩みは、そうした可能性を事実として示している。
