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【dough-ist 川原シェフに聞いた!】値上げ時代の生地の差別化 湯種のすゝめ

【dough-ist 川原シェフに 聞いた!】値上げ時代の 生地の差別化 湯種のすゝめ

値上げ時代の生地の差別化 湯種のすゝめ

原材料が高騰する今、「具」ではなく「生地」で差別化できたら、パン屋はもっと自由になる。

湯種とは?

小麦粉の約7割は、でんぷんでできています。
小麦粉のでんぷんは、60~65℃になると水を吸収し始め、糊(のり)のようにどろどろとした状態になります。
この変化を、α化、糊化(こか)といいます。
たとえば片栗粉は、水で溶いたままではサラサラですが、お湯を加えると、とろみが出ますよね。
糊化したでんぷんは本来どろどろになりますが、湯種では、流れるほどの水は加えられていません。
そのため、でんぷんは水を抱え込みながらも、生地の形を保った、かための状態になります。
糊化すると、でんぷんは水を吸いやすい形に変わります。
その状態のまま生地に加えられることで、あとから加わる水分も生地の中にとどめやすくなります。

パン好き消費者に聞いた!Q. もちもち食感のパンは好きですか?(n=220)

糊化していないデンプンの状態

・デンプン分子はきれいに折りたたまれ結晶のように整列している
・分子同士ががっちり結びついている
・そのため水が入り込むスキマが少ない

デンプンに水+熱が加わった状態

・分子同士の結びつきがほどける
・折りたたまれていた構造が広がる
・分子鎖がバラけて露出する
・水と結びつける場所が一気に増える

湯種を入れることで得られるメリット・デメリット

川原シェフの取材内容をもとに、湯種を使うことで実際に現場で何が良くなり、どこに戸惑いが生まれやすいのかを整理しました。

【メリット】

湯種を入れると、現場で何が良くなる?
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◇原価を上げずに、食感で印象を変えられる
・水分を多く入れても、生地が破綻しにくい
・しっとり・もちっとした食感が安定しやすい
・高加水でも成形しやすく、作業性が落ちにくい
・副材料を増やさず、生地そのもので差別化できる

【デメリット】

湯種を入れたら起こるマイナス面
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◆フランス系・軽さ重視のパンではマイナスに感じられることがある
・引きが強くなりやすい
・口どけ・歯切れが悪いと感じる人がいる

◆製法の部分で感じる差
・膨らみにくいと感じる
・発酵の進み具合の読みが、従来とズレやすい
・腰折れしやすいと感じる
・いつもの感覚が使えない
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湯種を入れたことで“ 扱い” が変わり、判断基準を切り替える必要がある

【腰折れ】

目で見えない変化が起きている
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◆なぜ腰折れが起きやすいと感じるのか

湯種を入れると、生地は水分を多く抱え込みます。
その分、見た目以上に内部が湿り、従来の感覚で作ると「重く感じる」「支えきれない」状態になりやすいんだそう。
特に重要なのが、1次発酵をしっかり取ること。
生地を“ 作り切る” 意識を持つこと。
次項の角食パンのレシピでも、「1次発酵をしっかり取ることで、最終発酵・窯伸び・腰折防止につながる」と川原シェフは語っています。
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◎つまり腰折れは、湯種の問題というより
「水分を多く抱えた生地に対する判断のズレ」から起きやすい現象

湯種は「生地の性格」を変える技術 メリット・デメリットは、表裏一体

湯種は、「パンの質を一気に上げる魔法の技術」というより、生地の性格を大きく変える技術だと捉えたほうが分かりやすい。

まずメリットとして挙げられるのは、水分を多く抱え込める点。
加水を上げても生地が破綻しにくく、しっとり感やもちっとした食感を安定して出しやすい。
副材料を増やさずとも、生地そのもので違いを作れるため、原価を抑え
ながら差別化できるのも大きな強みと言える。

一方で、湯種を使うと「膨らみにくい」「窯伸びの判断が難しい」「腰折れしやすい」と感じる声が出やすいのも事実だ。
ただし、川原シェフは取材の中で、腰折れは湯種そのものが原因とは限らないと話している。
湯種を入れることで生地は多くの水分を抱え、見た目以上に内部が湿った状態になる。
その結果、従来と同じ感覚で作ると、判断がズレたように感じやすくなる、という側面がある。

実際、角食パンのレシピでは「1次発酵をしっかり取ることで、最終発酵や窯伸び、腰折れ防止につながる」と明記されている。
つまり、問題は湯種の有無ではなく、水分を多く抱えた生地に対して、どう向き合うかという点にある。

もう一つ、本来の意味でのデメリットとして挙げられるのが、引きが強くなりやすいこと、口どけや歯切れが悪いと感じる人がいる点だ。
ただしこれは、軽さや歯切れを重視するパンではマイナスに映る、というだけの話でもある。
日本では、もちもち・しっとりとした食感を好む消費者が多く、湯種の特徴がそのまま強みになるケースも少なくない。

現場で変わる判断ポイント

湯種を使うと、「なんだかうまくいかない」「いつもの感覚と違う」と感じることがあります。
それは失敗ではなく、判断しているポイントが、従来のパンのままになっているだけかもしれません。

<POINT 01>ミキシング: 「 回しすぎ」より「回し足りない」ほうが失敗につながりやすい

【川原シェフの考え方】
湯種は、生地の中では副材料に近い存在。
その分、グルテンはつきにくくなるため、 普段よりもしっかりミキシングする意識が必要になります。

<POINT 02> 1 次発酵:時間より“ 生地の準備”。湯種生地は、急がせるほど不安定になる

【川原シェフの考え方】
1 次発酵をしっかり取ることで、最終発酵が安定し窯伸びが出やすくなり腰折れのリスクも下がる

<POINT 03>成形:無理にコントロールしようとしないほうが、安定する 

【川原シェフの考え方】
湯種を入れた生地は、水分を多く抱え込みながらも、内部にしっかりとした腰がある状態になりやすい。
そのため、無理に形を作り込もうとすると、かえって生地を傷めてしまうことがある。
グルテンのつながりやガス保持の状態を、成形で壊さないようにする。

<POINT 04>焼成:腰折れは“ ここ” では直らない

【川原シェフの考え方】
生地の水分量・1 次発酵の取り方・仕込み段階での生地の状態
これらが影響しており、「湯種だから腰折れする」と一概に言えるものではない。

実際に作りたい! 川原シェフに聞いた湯種パンレシピ

今回の特集では、川原シェフに店舗の中で汎用的に使える湯種生地のレシピを伺いました。
食パンをベースに、その先の展開まで考えられた配合と工程になっています。
ぜひご自身のお店でも試してみてください。

角食パン

湯種を入れることで、水分やバター、生クリームなどをギリギリまで配合した食パンです。
菓子パンや惣菜パンのベースの生地にも使用可能です。

【材料】
(60℃中種)
ゆめちから ・・・・・・・ 550g
ハルユタカ・・・・・・・ 240g
全粒粉 ・・・・・・・・・10g
セミドライイースト ・・・ 0.4g
水(60℃)・・・・・・・・680g

(湯種)
ゆめちから ・・・・・・・200g
お湯(100℃) ・・・・・・・ 400g
(米麹)・・・・・・・・・・ 2g

【本捏ね】
湯種 ・・・・・・・ ・・全量
60℃中種 ・・・・・・・全量
セミドライイースト ・・1.4g
塩 ・・・・・・ ・・・・21g
水(バシナージュ) ・・・ 200g


【工程】

【湯種】( 前日)
縦型ミキサーに沸騰したお湯に粉(20%)を入れる 
低速2分(+*2速30秒~) 即冷蔵

【60℃中種】( 前日)
お湯(60℃)と粉(80%)を混ぜ合わせる。低速1分。粉とお湯が混ざり合わさったら、イーストを追加する
低速1分・2速1分~ 40℃up 。
即冷蔵
*翌日、仕込むまでに1.3倍~1.5倍に冷蔵発酵させる

【仕込み】(当日)
*中種・湯種は冷蔵から
①中種・湯種(1/2)・塩・イーストを入れて 低速3高速5分
②湯種(1/2)を入れて 低速3分高速5分(16℃)
③バシナージュ 低速/ 高速で水を少しずつ入れていく
④高速で生地を作っていく 16~18℃up

(1次発酵)
・常温発酵 (夏)60分 (冬)60分+60分➡ 冷蔵
・冷蔵発酵(生地サイズが2倍程度になるまで)

(分割・丸め・ベンチ)
*冷蔵発酵で1.5~2倍
分割:520g
丸め:軽く大きな気泡だけを潰すように丸める
ベンチ:常温30分

(成形)
・軽く三つ折りのように丸める
・90度角度を変えて、軽く生地の端を潰すように叩き、上から内部の気泡を潰しながら張らすように成形。 
最後はバゲットのようにしっかり閉じる。
型に入れる

(最終発酵)
30℃以上のホイロ 90分~*型から出るか出ないか

(焼成)
*霧吹きで表面を濡らす。 前蒸気1回 焼成温度 190℃/250℃
後蒸気4~5回 50~60分

山食パン

小麦・水・酵母・塩・( 麹) のシンプルな配合の食パン。
余計なものが入っていないのでより湯種やお湯の効果を実感できるレシピだと思います。
副材料を加えることで派生の生地にも応用可能です。

<材料>
(60℃中種)
ゆめちから ・・・・・・・700g
キタノカオリ・・・・・・300g
お湯(60℃) ・・・・・・・800g

セミドライイースト・・・ 0.5g

(湯種)
ゆめちから・・・・・・・ 200g
お湯(100℃) ・・・・・・ 400g

【本捏ね】
60℃中種 ・・・・・・ ・ 全量
湯種・・・・・・ ・・・・ 全量
塩・・・・・・ ・・・・・ 24g
素焚糖・・・・・・ ・・・ 90g
セミドライイースト ・・・・9g
生クリーム(42%)・・・・ 150g
バター・・・・・・ ・・ 150g

<工程>

【湯種】( 前日)
100℃の熱湯に粉を入れて、湯種を作る(低速2分・高速2分)

【60℃中種】( 前日)
60℃のお湯に粉を混ぜ入れる 低速2分 粉が満遍なく混ざったら、高速で30秒~1分 40℃ up
冷蔵保存

【仕込み】(当日)
*中種・湯種は冷蔵から
①湯種・中種・塩・素焚糖・ドライイーストを入れて、低速2分・高速5分
②バターを加えて、低速2分。
バターが馴染んできたら、高速で5分
③生クリームを低速・高速で少しずつ加えていく。3~4分
④高速でしっかり生地を作っていく。
艶がでて、伸びが良くなるが、一体感があり、コシもある状態
18~20℃up

(1次発酵)
30℃以上ホイロで 60分 パンチ60分
*1次発酵でしっかり発酵を取れた方が最終発酵、窯伸び、腰折防止など様々な効果を期待できる

(分割・丸め・ベンチ)
分割:(1.5斤型)380g・2玉 
丸め:軽めに ベンチ:常温(ホイロ) 20~30分

(成形)
・軽く三つ折り
・90度傾けて、上から張らせるように 大きい気泡を抜きながら成形する *生地を痛め過ぎない

(最終発酵)
30℃以上ホイロで60分~90分
*型の2/3ぐらいまで上がったら

(焼成)
230℃/240℃ 50~60分
*焼成後ある程度冷めるまでひっくり返しておく…出来たら急速冷凍に入れると腰折しにくい

取材を終えて

dough-ist 川原シェフ

川原シェフが取材の中で話していたのは、「日本人が好む食感」と、湯種の相性の良さだった。
水分をしっかり抱え込み、しっとり、もちもちとした食感。
それは、日本の食文化や嗜好に合わせて発展してきた、一つの“ 答え”とも言える。
このレシピもまた、日本のパン屋の現場で、無理なく使えることを前提に提案していただいた。
ぜひ一度、みなさんも自身のお店で試してみてほしい。

【dough-ist 川原シェフに 聞いた!】値上げ時代の 生地の差別化 湯種のすゝめ

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