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“香り”を先に設計するパティスリー Seiichiro,NISHIZONOがフレグランス発想で築いた、真似できないブランド力

“香り”を先に設計するパティスリー Seiichiro,NISHIZONOがフレグランス発想で築いた、真似できないブランド力

パティスリーの商品開発は、多くの場合「味」から始まる。素材を選び、配合を決め、食感を整え、最後に名前をつける。それは、業界においてごく一般的なプロセスだろう。

一方、大阪のパティスリー「Seiichiro,NISHIZONO」では、商品開発の起点に「香り」が置かれている。

「味は記憶に残りにくいが、香りは情景と結びつきやすい」西園誠一郎シェフは、そうした特性に着目し、菓子づくりの軸として香りを捉えてきた。

香りを先に考え、そこから味、そしてネーミングへ。フレグランスの発想を取り入れたこの考え方は、どのように商品として形になり、Seiichiro,NISHIZONOというブランドの核になっているのか。
本稿では、取材で語られた言葉をもとに、その考え方にせまりたい。

「味は記憶に残りにくい」

発想の起点は実感から

西園誠一郎シェフが香りに注目する理由は、流行やマーケティングではない。
あくまで、これまで菓子と向き合ってきた中での実感だ。

「味って、意外と記憶に残らないんですよね。でも香りは、情景を思い出させる力がある」

この言葉は、味を軽視しているという意味ではない。
むしろ、味を突き詰めてきたからこそ見えてきた感覚だ。

完成度の高い菓子を食べても、時間が経つと細部の味の記憶は薄れていく。
一方で、香りは記憶と結びつきやすく、過去の体験や印象を呼び起こす力を持つ。

西園シェフは、この特性を「菓子づくりに応用できるのではないか」と考えるようになった。

香りを決めてから、味を組み立てるという逆転

Seiichiro,NISHIZONOの商品開発において特徴的なのは、
香り → 味 → ネーミング
という順序で設計されている点だ。

一般的には、味を決め、形を整え、最後に名前を考える。しかし西園シェフの場合、最初に来るのは香りの方向性である。

その考え方を象徴するのが、いちごを使った商品の発想だ。

「いちごって、バラ科なんですよね」

植物としての成り立ちに着目し、いちごとバラが同じ科に属することから、
バラの香りを合わせるという発想が生まれる。
香りの方向性を先に定め、その香りを活かすために味の構成を考える。最後に、その世界観を言葉に落とし込み、ネーミングを行う。

この順序によって、完成した商品は味だけでなく、背景となる考え方や物語を内包することになる。

フレグランスの専門家と相談しながら進める香り表現

香りを軸にした菓子づくりにおいて、西園シェフはフレグランスの専門家にも相談しながら進めているという。

香りの構造や抽出方法など、食品とは異なる分野の知見を取り入れることで、香りの表現を整理していく。その取り組みの一例が、バラオイルの抽出だ。
香りを商品設計の要素として捉え菓子に取り入れている。

ここで重要なのは、香りを「感覚的なもの」として扱うのではなく、設計の一部として向き合っている点にある。

香りの設計を、表現としてどう形にするか

「ちゃんとケーキとして成立してないと意味がない」

取材の中で、西園誠一郎シェフはそう語っている。
香りを軸にした商品づくりを行う一方で、その前提として置かれているのが、この考え方だ。

香りを起点に考える場合も、それ自体を前面に出すことが目的ではない。「ケーキとして成立しているかどうか」を基準に、香りの使い方が検討されているという。

また西園シェフは、香りの設計とあわせて、花をケーキに添える表現についても語っている。

香りのイメージに合わせて花を選び、菓子の一部として取り入れる。それは装飾のためではなく、香りの方向性を補足する要素として考えられている。

香りをどう設計し、それをどのように商品として表現するか。Seiichiro,NISHIZONOの菓子づくりは、香りを起点としながらも、あくまで「ケーキ」という形の中で構築されている。

香りがブランドの核として定着していく

香りを起点とした商品開発を重ねていく中で、それは次第にSeiichiro,NISHIZONOという店全体を貫く軸になっていった。

香りは、個々の商品を特徴づける要素であると同時に、ブランドの共通言語でもある。

重要なのは、香りが後付けの演出ではなく、商品設計の初期段階から組み込まれている点だ。その積み重ねが、他店には簡単に真似できない独自の強みとして成立している。

まとめ

香りを起点に商品を設計するという考え方は、Seiichiro,NISHIZONOの菓子づくりを特徴づける一つの軸だ。

味をどう組み立てるか、どんな香りを重ねるか、そしてそれをどのように商品として表現するか。西園誠一郎シェフは、そうした工程を香りから逆算する形で整理している。

味を磨くことは、菓子づくりの前提条件。そのうえで、何を起点に商品を組み立てるのかという視点は、商品開発のあり方そのものを問い直す。

香りという切り口は、パティシエやベーカリーオーナーにとって、自身の菓子づくりを見つめ直す一つのヒントになるかもしれない。

“香り”を先に設計するパティスリー Seiichiro,NISHIZONOがフレグランス発想で築いた、真似できないブランド力

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