Pain Pigeon 八村 努・八村奈都子

息子のように育てたお店と 職人夫婦の 22 年間の歩み

八村 努(はちむら つとむ)
埼玉県内のパン屋さんでパン職人としてのキャリアを歩み、八村奈都子さんと出会い、結婚。
独立を視野にベーカリー開業コンサルティング会社の派遣スタッフの仕事に従事後、2003年10月パン・ピジョンを開業。
八村 奈都子(はちむら なつこ)
調理師学校卒業後、フランス料理店、パティスリー、パン屋、チーズ屋など様々な飲食店を経験後、2003年10月、八村努さんとともにパン・ピジョンを開業。
パン屋さんの奥さんになる夢が実現。
パン・ピジョンは ふたりにとって長男坊

埼玉県川口市、鳩ケ谷駅の近くに職人夫婦が経営するパン・ピジョンがある。
取材班が訪れた11時頃、近所の方であろうお客様が続々と来店し、おのおの目当てのパンを買っていく。
常連客と思われるお客様がお店の前に立っていた八村奈都子さんに、声をかけ、それに奈都子さんがとびきりの笑顔と明るい接客で応じている姿があった。
アットホームでつい立ち寄りたくなる雰囲気で、長年愛されてきたのだろうという様子が、その1シーンから伺い知ることができた。
パン・ピジョンといえば、オーナーシェフ夫婦の八村努さんと奈都子さんのそれぞれこだわりのクリームが2種類一緒に包餡された名物のクリームパンを一番に思い浮かべる人も多いだろうが、その他にも魅力的な商品がたくさん。
パン・ピジョンの開業の秘話から、店づくり商品づくりの哲学、パン業界の現在に関して感じることなどお話いただいた。
努さんと奈都子さんの掛け合いが明るく印象的で和気あいあいとした雰囲気でインタビューに望んだ。
パン・ピジョンを開業したのは2003年10月。
八村夫妻が結婚して3年目のことだ。
奈都子さんはもともとパン屋の奥さんになりたいという気持ちがあり、勤めていたパン屋さんで努さんと出会い結婚した。
努さんもパン屋開業を考えつつも、お店を持たない人生もあるかもしれないと思っていたところ、奈都子さんの気持ちが開業の後押しになったようだ。
八村夫妻はのちに2人の息子さんに恵まれるが、子どもの誕生よりお店の開業のほうが先だった。
「パン・ピジョンがわれわれの長男みたいなものですよ」と奈都子さんは言う。
開業するとなると4桁万円の借金を背負い、運転資金や、従業員の給料など日々資金繰りに頭を悩ますことになる。
「結果論だけど、お店の開業が先で良かったと思う」と努さんは言う。お店の軌道がある程度乗るまでは、子どもに関係するお金回りとの両立は難しかったかもしれないと振り返る。
奈都子さんは「開業当時は深く考える余裕もなかったので、とにかく働いて、目の前のお客様のために手を動かしていました」と答え、夫婦二人三脚で開業数年の忙しない日々を乗り越えた。

職人夫婦の葛藤と 役割分担まで

八村夫妻はどちらも職人なので、どちらも手が速く、どうすれば無駄なく効率的に製造していけるかということが共にわかっている。
開業して数年は夫婦ふたりとも、厨房に立って良いコンビでお店を回していたという。
職人気質を追求していくことも二人だけならどこまでも追求していけるかもしれないが、売上が増え従業員も増えていくと、理想はこうだけど、現実として実現できるのはここまでだよなという差を感じるようになった。
従業員にオペレーションを落とし込むためには工夫が必要となる。
そのタイミングの前後で、努さんは徐々に現場から離れ、経営者目線を強めるために様々なオーナーとの情報交換に注力し、奈都子さんは現場を監督しつつ従業員が無理なく実行できるようなオペレーションの最適化をはかり、夫婦で役割分担していった。
現在こそ、そのやり方がなじんできて従業員にも恵まれ柔軟なオペレーションができつつあるが、努さんが現場から少しずつ離れだしたタイミングは夫婦の衝突もたくさんあったという。
開業からしばらくは夫婦二人三脚で同じタイミングでお店に入り、上がり時間も就寝時間も同じという行動を共にする生活から、それぞれの行動習慣や生活時間が異なっていく生活への変化は戸惑いがあった。
「ずるいなあと思っていました」と奈都子さんは当時の正直な気持ちを漏らした。
夫婦で阿吽の呼吸で成立していたものがなくなり、従業員やお店の体制で、できるように再構築する苦労があったようだ。
努さんは「職人のこだわりを尖らせていくやり方もあるけれど、売上を上げるという観点で柔軟な別のやり方もあるなと視点の変化があった」と言う。
開業前から様々なオーナーや社長などとの繋がりがあり、お誘いをうけて「社長たちが集まる会」に参加して情報交換をしていく。
職人目線だけでなく経営者目線を取り入れ
た結果、パン・ピジョンの成長を次の
フェーズに押し上げたと言える。
目の前の人に対する興味と愛情

話を聞いていて印象的だったのは技術面だけにこだわるのではなく、人とのつながりや縁を大切にしている様子が伺えたことだ。
八村さん二人とも周囲の人間に興味を持っている。
それが接客にも、従業員への接し方にも、商品づくりにも、同業者や取引業者との関係性にも生かされて愛されるお店になっているということが伝わってきた。
取材班がおすすめパンを試食していると、「イチジクとチーズが一緒に食べられるように挟む位置を工夫したほうがいいね」と食べている様子から改善案を考えたり、この味はどうかという議論を夫婦でしたりして、お客様の立場に立って日々改善していることも垣間見えた。
努さんと奈都子さんとで意見の相違や見え方が異なることでの衝突があったとしても、長年パン・ピジョンを続けられるのは、お互いへのリスペクトがあるからだということが伝わる温かい取材だった。

【八村夫妻に聞いた】 暇な時間を作らず手をたくさん動かす

奈都子さん:うちのお店は、無駄なく手を動かしチャキチャキ働く方が向いていると思います。
努さん:たしかにね、暇な時間はもったいないし、やることなんていくらでもあるからね。売上に対して一人あたりの生産性も結構高いんじゃないかな。
奈:やることも多いからねー。たとえば、コロッケパンのコロッケは既製品でなく手作りでやってて、ジャガイモゆでてから、パン粉をつけるまで一人で30、40分で80個準備するってことを誰でもできるように、落とし込む工夫をしているの。
努:焼きそばパンの焼きそばだって自家製。キャンプ飯の動画を見ていたら、その発想を応用して、効率的にオーブンで大量に焼きそばをつくるやり方を思いついて。そういう日々の工夫をしなきゃ、こんなに大量にはつくれない。
――パンなんだけど、たくさんの料理を振る舞っているように見えますね。
努:なっちゃん、いろいろ飲食店経験しているから、その引き出しの多さもあるよね。それは刺激になったなあ。
奈:そうね、パン屋だけでなく、菓子屋だったり、フランス料理店だったり、いろいろやっていたね。
――クリスマスケーキの受付やっていますよね?(※取材時がクリスマス前)
奈:そうそう、毎シーズン100台くらいつくっている。注文受けたものを。
――え!?お店と同じ厨房でやっているんですか?
奈:そう!よくやるよね〜、厨房は広いわけじゃないのに。
努:厨房の中で、クリスマス期間中は、一部スペースはなっちゃん専用だねみたいな、暗黙の了解ができてるよね。
――若手職人に向けて伝えたいことはありますか?
努:素直が一番。まずは言われたとおりにやるのがいいんだけど、意外とできない子が多いと思う。たとえば、包餡作業。あんべらを持ち続けて、連続して作業するほうがいいと言っても、僕は一回一回、あんべらを置いたほうがいいと思いますとか、そのほうがやりやすいみたいなやりとりがあったりね。
奈:こうしたほうがいいよ、理由はこうだよと指摘したとして、指摘ではなく怒られていると捉えられてしまうこともあるから難しいなあと日々葛藤。

素直さと頭を使うことが伸びしろに

努:なるほど、そういう理由なのかと理解して、自分に足りない部分を素直に認めたうえで、どう伸ばしていくかを考えられるようになると、成長の見込みが出てくる。
奈:安易に自己流に走るんじゃなくて、つまづいたり困ったことがあったらそのタイミングで相談したらいいと思う。報告・連絡・相談(報連相)が大事。日々やることはたくさんあるから手取り足取り丁寧に教えるというよりかは、慣れてもらうしかないんだけど。
努:あとは、点ではなくて、オーナーは何を考えてこの流れにしているのかを考えるのが大事、なんでこうなっているんだろうと興味を持つのがいいね。
奈:手を動かし続けていれば技術が上がっていくし、慣れていくものだけど、どのように動いたらいいかと頭を使うことも、もちろん必要なのよね。
努:ずっと雇われの身でいるのか、それとも独立を目指すのかで意識も異なってくるしね。
奈:素直であること、人とのつながりを大切にすることが大事。
技術はずっとやり続ければ身についていくものだから。

SHOP DATA

Pain Pigeon(パン・ピジョン)
●所在地: 埼玉県川口市里1245-1
● 立 地 :鳩ケ谷駅より徒歩2分
●開業年:2003年
●定休日:月曜日・第二火曜日
●スタッフ数:30名
(販売員・製造員の区分けなく)
●日商:平日50万 土日80万
●営業面積:売場9坪、厨房13坪
●客単価:平日:1600円 土日:1800円
●オーブン台数:2台
●ミキサー台数:1台
●パンの種類:100種類
●お菓子の種類:20種類

