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MORETHAN BAKERY 神林慎吾

【Bakery Partner 2025年4月号interview】MORETHAN BAKERY 神林慎吾

パン職人としての熟成期間と 独自の仕事人キャリア

MORETHAN BAKERY 神林慎吾

かんばやし しんご

大学生のとき、パン屋さんでアルバイトをはじめ、大学を中退し20歳からパン職人の道へ。
33歳で独立し、国分寺、八王子でお店を経営し、商業施設や駅のプロジェクトでの複数出店など事業が拡大。
45歳で(株)MOTHERS に入社し、Boulangerie Bistro EPEE 、MORETHAN BAKERY を立ち上げ、ベーカリープロデューサー、執行役員として従事。

運命的に パン職人人生が開幕

MORETHAN BAKERY

海外からの観光客も多く訪れる新宿のホテル「THE KNOT TOKYO Shinjuku 」の中に「MORETHAN BAKERY 」がある。
パン屋としてパンを製造・販売するだけでなく、ホテルの朝食やレストランで提供するパンも製造している。
「MORETHAN BAKERY 」を運営する株式会社MOTHERS は吉祥寺にある「BoulangerieBistro EPEE 」を含むベーカリー、レストランなど複数の飲食店を運営している。
そこで執行役員、ベーカリープロデューサーを務めるのがシェフの神林慎吾さんだ。
36年にわたるパン職人としての経歴を伺いながら、パン職人の技術を礎として、切り開いてきたキャリアについての話を伺った。

神林さんがパン作りの道に進んだのは偶然で運命的な出来事がきっかけだった。
意外にも、学生時代は美術、家庭科などモノづくりにかかわる授業は得意ではなかったという。
大学の在学中にパン屋の販売員としてアルバイトをするのだが、きっかけも、知人に勧められて偶然、縁があったアルバイト先でしかなかった。
大学を出て手堅く就職をする進路を当時はイメージしていた。
しかし、会社員として社会に出るとしても、学歴の壁などがあると感じていて、他の生き方や、個で戦える領域はどこだろうかとぼんやりと考えていたという。

MORETHAN BAKERY 店内

転機が訪れたのは、アルバイト先のパン屋さんのパン職人が一斉にやめて製造する人員が急遽いなくなったという出来事だ。
急ごしらえでなんとか製造体制を維持しなければということで、販売しかしたことのなかった神林さんも製造人員として組み込まれることになった。
右も左もわからないながら、見よう見まねで製造をした。
お金を払ってくれるお客様に失礼のないような、商品として成り立つものを出さなければならないという思いでパンを作った。
道具や機械の使い方などわからないことばかりだったが、販売員として日々見ていたパンの色など感覚的な部分を頼りに無我夢中で製造。
目が回る忙しさだったが、同時に楽しさを感じていたという。
その事件から1か月後、パン屋の社長の知り合いで製造現場を知るコンサルタントがお店の様子を見に来た。
そして、パンの製造経験が1か月しかないにも関わらず、十分な戦力として働く神林さんの様子を見て驚いて掛けた言葉が「君はパン職人になるために生まれてきたんだね」だった。

進路の漠然とした不安が募っていたとき、暗闇の中に光が差したようだったと神林さんは当時を振り返る。
「やりたいことが見つかった!この道で生きていきたい」と感じた神林さんはその足で大学の中退届を出し、パン職人への道に進んだ。
当時20歳の出来事だった。

独立と事業発展と終止符

パン職人の世界は「やればやるほど身につく世界だ」と神林さんは語る。
20歳当時でも、職人の世界にもっと若い年齢で入った職人たちと比べると2年程度、技術を磨く時間が遅れているという焦りがあった。
だからこそ、なんでもやりますという意気込みで技術を貪欲に磨いていった。
販売アルバイトから成り行きで製造員になったパン屋で3年、その後、
大手製パンメーカーで5年、その後、個人店を転々として技術を磨きながら、職人としての信用を獲得していき、33歳で独立し国分寺で開業した。
「ずっと人との縁に助けられてきたんです」と神林さんは語る。
開業の際、貯金がほとんどなかったが、「出世払いでいいから」と機械を提供してくれる機械メーカーとの縁、大工仕事が好きでスケルトンからお店をつくる協力をしてくれた仲間との縁もあり、一部公庫などから資金を得て、初期投資500万円からお店をスタートした。
6、7年は町の小さなパン屋として経営して、時々催事に出店するくらいだったが、しばらくすると大きな仕事のチャンスが舞い込むようになった。
国分寺の商業施設内で常設のお店をやらないかと声がかかったり、JR立川駅の大型プロジェクトで店舗出店をしたりなど、事業はどんどんと大きくなっていった。
大規模な製造のためにも拠点をつくらなければならなくなり、八王子の大きな倉庫だったところに、ケーキ屋さんと半分ずつ区画をわけあって製造拠点をつくった。
「ありがたくもお声がかかって成長させてもらいましたが、同時に自分のキャパシティがついていけていないとも感じました」と神林さんは当時を振り返る。
大規模な事業を継続していくほどの経営者として振り切るのは難しいと感じた神林さんは、プロジェクトに関わっていた当時の従業員の待遇は守ることを前提として、事業を譲渡することを決断。

ベーカリープロデューサー としての活躍

MORETHAN BAKERY

八王子の倉庫の工場を拠点に卸などの仕事で再スタートすることになった。
倉庫なので、冬は寒さが厳しくオーブンの前でも3、4℃程度という環境で作業をしていた。
石油ストーブを置いて、どうせもったいないからと、その上で煮込み料理を作っていると、料理とパンの融合のアイディアを思いつく。
個人店で食事パンを売る難しさを感じていたため、食事と一緒に食事パンを提案することができないかと思っていた。

そんなとき、おしゃれでかっこいいお店だなと感じていたレストランを運営する会社の社長がベーカリーレストランの事業をする話を聞きつけた。
それが、神林さんと(株)MOTHERSの出会いだ。

45歳で転職し、ベーカリープロデューサーとして、「Boulangerie
B i s t r o E P E E 」、「MORETHAN BAKERY」などを立ち上げ、パンとレストランの世界観を広げる仕事に従事。
他にもヴィーガンパンの開発など新しい挑戦に精力的だ。
「お客様の美味しいという声や、ありがとうという言葉が一番の対価です。
目の前の人が喜ぶものを作りたい、その想いがあれば大きなことができると思います」と神林さんは語った。
偶然の出来事や、出会った人々との縁を大切にしながら、パン職人という技術を駆使しながらもキャリアを広げてきた神林さんのお話は勇気づけられるものばかりだった。

MORETHAN BAKERY's Bread

【神林さんに聞いた】 ヴィーガンパンで広がるパンの可能性

外部から依頼された仕事で、ヴィーガンのコース料理に合うようなパンを開発したことがありました。
それがきっかけで、パンそのものの美味しさを再発見しました。
植物性のものだけを使うと考えると、そもそもパンは小麦から作られるし、植物性の原料のおいしさを引き立てるにはどうしたらよいかを考えるようになりました。
それまではレストランのメインの食事ありきで、食事を引き立てるようにパンをつくるという視点でした。

しかし、パンそのものを美味しくする手段の一つとしてヴィーガンを捉えられることができると知り、世界が広がったと感じました。
そこから「MORETHAN BAKERY」でもヴィーガンパンを大々的に出す日があってもいいのではと考え、毎週日曜日はヴィーガンパンだけの売場にするSUNDAY VEGANを始めました。
ちょうど2020年のコロナ禍が始まって時代が不安定になっていて、レストランに人が全く来ないタイミングだったからこそ、思い切ったことができたのかなとも思っています。
SUNDAY VEGANを始めたことでお客様が離れるということはなく、既存のお客様に加え、ヴィーガンパンに興味をもったお客様が来店することで、日曜日は他の日よりも+20万円ほど日商が上がっています。
また、現在「SUNDAY VEGAN」という店名で吉祥寺にも店舗展開しています。

MORETHAN BAKERY

「MORETHAN BAKERY」は海外のお客様が多く訪れるホテル内にあるのに、ハラルやヴィーガンを意識していないのはどうなのかという声もありました。
いざヴィーガンパンを始めると、まだそこまでヴィーガンが広がっていない日本でヴィーガンパンをつくっていることに、興味をもった国際的なアパレルメーカーから仕事の依頼が来ることもあり、注目を感じました。
これまでのキャリアの中で様々な縁がありましたが、目の前の人を喜ばせたい、そのために持っている技術を活用したいという想いは変わっていないなと思います。

チャレンジできる環境整備と後進育成へ

MORETHAN BAKERY

「MORETHAN BAKERY」のようなホテルベーカリーでは、通常のお店の3、4倍の製造量を確保する必要があります。
会社としては、同じような形態のパン屋さんの出店が今後も続くので、それを支える人材育成が急務です。
スタッフに意識して伝えているのは、まずチャレンジして、楽しむことの大切さ。
僕自身が楽しんで仕事をやっているのが伝わるといいなと思っています。

また、やるかやらないかで悩んだときはやるほうを選ぶといいと伝えています。
パンのコンテストのチャレンジをしたスタッフもいます。
人手が限られている小さなお店ではなく、マンパワーを調整できる規模の会社だからこそ、バックアップがあってチャレンジを応援しやすい環境なのではないかなと思います。
なので、様々なチャレンジをしてほしいです。
職人としての技術を磨く必要性がある一方で、労働時間の制限があるというのは難しい課題だなと思います。
パンはゆっくり発酵させたほうが美味しいと思っているので、時短が正義だと考えていません。
職人の技術も時間をかけて経験値を積むのが大切です。
才能やもともとのスキルだけでは限度があり、プラスアルファの努力が必要です。
いいパンを作りながら働く時間を減らすにはどうしたらよいか、環境をどう整備したらよいか考えるのがこれからのチャレンジだなと思っています。

MORETHAN BAKERY(モアザン ベーカリー)

MORETHAN BAKERY 外観

●所在地:東京都新宿区西新宿4丁目31-1 The Knot Tokyo Shinjuku, 1F
● 立 地 :都営大江戸線「都庁前」から徒歩6分
●開業年:2018年
●定休日:なし
●従業員:27人(販売15人、製造:12人)
●日商:50~60万(日曜日は80万)
●オーブン台数:3台
●ミキサー台数:3台
●パンの種類:50種類

【Bakery Partner 2025年4月号interview】MORETHAN BAKERY 神林慎吾

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