店舗展開し続けてもレベルを落とさないプライド
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BREAD IT BE 森田 良太(もりた りょうた)
「BREAD IT BE」店主、「沢村」「THECITY BAKERY」の技術指導を行う。
株式会社フォンスのパン作りへの想いが繋がりTHE CITY BAKERYの日本での運営を任されることになった。 THECITY BAKERY は現在全国に37店舗と拡大している。
パンそのものの美味しさを追求したお店
国内外からの観光客が絶えない人気のスポット鎌倉。
JR鎌倉駅から歩いて5分ほど行くとパン好きの間では知らない人がいないほどの有名店、BREAD IT BEが見えてくる。 店内にはバゲットや食パンなど、食事パンが中心に並ぶ。
25種類もの小麦粉をパンに合わせて配合、製粉までも手がけている。
このこだわりは統括シェフの森田良太さんのパン生地そのものの美味しさを追求したいという信念に基づいている。 パン作りの際は、自分の求めるパンにするために小麦粉を調合していく。
それぞれの小麦粉の特徴を把握するために初めて使用する小麦粉は、1種類の小麦粉だけでバゲットを焼く。 そこでボリューム感、香り味わい、給水率などのデータを取る。そのようにしてBREAD IT BEのパンのクオリティは守られている。
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中華料理から異業種、パン屋へ
子供の頃から、寿司職人になりたいと思うほど、料理に関心があった森田さん。
母親の代わりにキッチンに立つ機会も多かった。
寿司職人だった夢はとあるテレビ番組の中で中華料理人を見たことがきっかけで、中華料理の道へ。
その後専門学校へ通い横浜の有名中華料理店に勤めることになった。
当時、横浜にはブーランジェリーと名前がつくパン屋が増えてきた頃。 同僚とパン屋巡りをする事にハマっていた。 パン屋巡りをしていくうちに、パン屋のオーナーの印象がスタイリッシュなものに変わったという。
ぼんやりと、30歳までには独立したいと考えていたが、パン屋巡りを続けるうちに、自らも同じ土俵に立ちたいと、パン屋開業を次第に意識するようになった。
一見、不運にも思える出来事も人生の転機に
パン屋になってみたい、そう思い始めていた森田さんに転機が訪れる。
勤め先の中華料理店が、火事により全焼。 系列店に異動するのか辞めるのかの選択に迫られ、遂にパンの道に行くことを決断した。 初めてのパン職人の経験は、横浜にあるホテルのベーカリー部門。
基本的なパン作りはそこで学んだ。 しかしホテルの方針が変わり、スクラッチベーカリーを止めて冷凍生地等を使用したパンの製造になり、もっとパンの知識や製法を学びたいと思い転職を決意。
当時森田さんは長時間発酵のパンに興味を持っており、憧れのパン屋の門をたたいた。 しかし、あまりの人気店だったため、店舗の人員の空きがあるまで、60人程が働く系列店の工場で待ってほしいと言われた。
2年弱働いたが希望の配置にはならなかった。
しかしその間にもめきめきとパンの知識を培っていた森田さんは、新規立ち上げするというパン屋に転職し、初めて新作商品の開発に携わることができた。 同じような経験値の仲間たちと一緒に働き、ほぼ責任者のような形で働いた経験が森田さんにとってはとても楽しい時間だった。 森田さんはこの店を4年間勤め上げ、29歳になっていた。
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さらなる転機 株式会社フォンスとの出会い
パン屋での経験を重ねて、そろそろ都内でお店を構えたいと考えていた矢先、声がかかった。
蕎麦屋から始まった株式会社フォンス。軽井沢に初めてのパン屋を立ち上げるので力を貸してほしいとのことだった。 これが軽井沢の沢村である。 ここで初めて森田さんは責任者として、すべてを任されることになる。
メニュー、人員、機械、厨房の設計すべてを任された。 オープンした当初は家にも帰れないほど目まぐるしい毎日を送っていた。 そんな中、アメリカにあるパン屋THE CITY BAKERYが日本のパートナー企業を探していると聞くことになる。 そこからニューヨークへ視察に行き、現地でオーナーに話を聞くうちに、「明日何時から来れるのか」と、翌日から1日働くことになった。 T
HE CITY BAKERYの日本での運営には何社か手を上げていたが、この数日間の視察がきっかけでフォンスがその運営を任されることになった。
その後、2013年にTHE CITY BAKERYがオープンしてから、現在に至るまで40店舗近く店舗拡大し続けている。
驚くべきは、今までオープンしたすべてのお店が閉店せず今もなお、お客様に愛され続けていることだ。
それは、森田さんのお店のレベルを下げたくないというプライドも大きく関わっているだろう。
また、お店のブランドを守りながらも日本人の食卓に馴染む「食パン」や「総菜パン」などの新たな商品開発にも力を注いだ。
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10年の集大成 BREAD IT BE
沢村でじわりじわりと認知度を広めていったフォンスだが、THE CITY BAKERYで一気に火が付いた。
森田さんの下で働く若いスタッフにも現場を任せられることが増えてきた。
そろそろ自身も現場に立ってパンを作りたいという気持ちが強くなり、入社11年目になるタイミングでお店を任せてもらえたのが、このBREAD IT BEだった。
沢村の立ち上げ当初からやりたかった、菓子パン、総菜パンを置かず、食事パン中心のラインナップの店を作った。 パン自体を美味しいと思ってもらいたい。という森田さんの思いが詰まった店だ。
実際、お客様は総菜パンや菓子パンに手を伸ばしやすい。
沢村では、食事パンのみを置くことを決断出来なかった。 今の自分だから、やっとできるようになったと森田さんは語る。 森田さんのパン人生の集大成ともいえるBREAD IT BE。
今後も最高のパンで我々を驚かしてくれるだろう。
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【森田さんに聞いた】 好奇心と緻密なデータ収集
パン作りの際は、目指すパンのために使用する小麦粉を配合していくイメージです。
僕は幸運なことに一番最初の修行先でも当たり前のように複数の小麦粉を配合してパンを作ってきました。
当店でも同じように食感を良くするためにAという粉を使い、給水率が欲しいからBという粉を配合しよう、という具合に自分の中の粉のデータから配合を決めます。 現在当店では、25種類の小麦粉でパンを作っています。
その中から、5種類の小麦粉を配合して作った、BIBバゲットは当店の中でも特にシンプルな配合です。 パン屋をやっている以上、フィリングや具材ではなく、パンそのものを美味しいと言われたい。
そう思っているので、BIBバゲッドを美味しいと言ってもらえるのが一番うれしいです。
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THE CITY BAKERYでは多くの店舗を展開していて、工房によって使用している機械が異なります。
本来であれば多店舗展開する店は味を統一させるために、同じ機械を使うのがセオリーなんでしょうが、僕は敢えてやっていません。
その時々で僕が気になる窯や、機械を導入しているからです。
いろんなことに挑戦したい、いろんなものを試してみたいと日々思っており、その辺は小さな時から変わっていないのかもしれませんね。
それが僕のいいところでもあり、悪いところかもしれません。(笑) なので、僕は全国にある店がまったく一緒の味でなくても良いと思っています。 地域の水、気候、標高が違えばパンの窯伸びや仕上りが違うことは仕方がないこと。 改良剤などを使用して、同じ品質にすることはできますが、1つのパン屋として、その店舗にしかない商品をおいて、全国のTHE CITY BAKERYを楽しんでほしいなと感じています。
お店のレベルを下げないプライド
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最近はお客様も味がわかる方が増えました。
その人たちに届くものをちゃんと作りたいと思っています。
どんな機械を使用しても、どんなに店舗展開してもどんなスタッフが集まったとしても僕は、「僕のパンの作り方」でしか教えません。 僕がいないところで、勝手に作りやすいようにレシピをアレンジしない。
時にそれが理由で、パンが出せない日があるかもしれないですが、「僕のパンの作り方」を徹底させています。
消費者の方は味に敏感。
そういうところでがっかりさせたくないですし、言い訳もしたくない。
少し厳しいようにも思えますが、これが離職率の低さにも繋がっていると思います。 フォンスのパン作りに憧れて入ってきてくれたスタッフが、誰でもできるパンを提供していたら、ここで働かなくてもいいと感じると思います。 フォンスに入ったからこそ、しっかり技術が学べる、こんなに材料も使える、最新の機材も使える、いろんな種類のパンが作れると、当店で働くことの意味をしっかりと感じられるようにしてあげたい。
そのためにもお店のレベルを下げないようにしています。 それを続けた結果、お客様にも安心感を与えられたと感じています。 1店舗目の沢村の立ち上げから携わって来ているので、この店のブランドを守り続けていきたいと思っています。
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BREAD IT BE(ブレッドイットビー)
●所在地:神奈川県鎌倉市小町2丁目16−35 鎌倉十番館 101
●開業年:2020年2月
●定休日: 水曜・第2木曜
●客単価:1,000~1,500円
●オーブン台数:1台
●ミキサー台数:2台
●パンの種類:約30種類(生地20種類)
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